Portfolio worker の時代

副業から複業へ、さらにその先の「ポートフォリオ・ワーカー」としての働き方の実現が現実的になっている。リンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏の著書「LIFE SHIFT」をご存じだろうか。人の寿命が伸びた現代における人の生き方の変容について書かれたもので、特に人のキャリアが教育→就職→退職→老後という一方通行、いわば「直列つなぎ」の姿から、年齢に限らず、その時の嗜好に応じて、3 つのステージを行き来しながらキャリアを選択できる「並列つなぎ」に変わる姿を描いている。新しい領域を「探求する」、個人自身で仕事を産み出す「独立生産する」、そしてジャンルや動機が異なる仕事を組み合わせて「ポートフォリオを組んで働く」という 3 つのステージだ。この発想が、現代の日本の働く人たちに対して与える示唆は実に大きい。

矢野経済研究所によると、2021 年、国内の副業プラットフォームの市場規模は 250 億円に達し、前年から 25% ほどの年間成長を遂げた。コロナ禍を経て、いつでもどこでも働ける技術と文化が浸透したことが、急速な市場成長の大きな要因の一つだろう。効率化された仕事の合間に生まれた隙間時間が、一人ひとりの新しい働き方や稼ぎ方、生き方の探求を促しているに違いない。

これまで、一つの会社に勤め上げたり、転職を挟んでキャリアアップに臨むのは王道であったし、自分自身でこれだという事業を立ち上げて邁進することへの門戸も広がってきた。しかし、昨今はそもそも「何がやりたいか分からない」という人もいまだに多く存在しているだろう。世間の波に飲まれるように就職活動をしたり、その時の夢らしい夢を求めて一か八かの転職の賭けに出なければいけないという環境は、私たちのキャリア選択を難しいものにしてきたが、コロナ禍を乗り越えた今、まったく新しい働き方の模索ができるようになるかもしれない。その一つの切り口が、副業としてまず自身の探求と独立生産の試行錯誤を繰り返しながら、将来的にポートフォリオ・ワーカーとして働ける可能性を開拓することにあるのではないか。

現在、副業の形態としては、いわゆるギグワーカーとして単発の仕事を請ける形式が多そうだ。一部のエンジニア系の職種では、業務委託契約を複数結んで、週数日稼働を組み合わせる働き方も一般的になっている。しかし、社会保障面や税制面などの制度整備や情報共有は、正社員や自営業向けのものと比べるとまだ不完備である感じは否めず、より多くの人がポートフォリオ・ワーカーを選択肢にするための実践的なノウハウや生き方の指針が示されていない。ただ、これからは就職や起業だけでなく、いくつかの領域の仕事にそれぞれ特別な想いと狙いを乗せて、1 週間の 168 時間を割り当てていくような生き方を求める人は増えていくはずだ。私たちそれぞれが最高の自己実現をするために、一人ひとりが自分の働き方への変革に挑戦すべき時代がすぐそこまできている。